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インドネシアの伝統的な5つの布と、その背景にある物語

 

インドネシアは様々な伝統的な布に恵まれた島嶼国です。インドネシアの各地域には伝統に根ざした様々な種類の布があり、その中には多くの哲学や物語が宿っています。もちろんその中には高い評価を得ているものもあります。これらの5つのインドネシアの布にまつわる物語を見てみましょう。

1 | 「テヌン・グリンシン」健康の象徴

バリ島のトゥガナン産のグリンシンの布は、ダブルイカット(経緯絣)の技法を使用して作られたインドネシアで唯一の伝統的な織物です。グリンシンという言葉は、「gring」(病気)と「sing」(ない)を組み合わせたもので、「病気ではない」という意味になります。そのため、グリンシンの布は、様々な身体的・精神的な病気を遠ざけるものとして作用すると考えられています。トゥガナンの人々は、この布には病気から身を守る魔力があると信じてきました。

バリの神話によると、グリンシンの布は、インドラ(バリの雷神)が魅惑的な夜空に感嘆したことに端を発していると言われています。インドラは自身が見たものをトゥガナンの人々に伝え、星、月、太陽、そして空の広大さまでを捉えたグリンシンの布を織る技術を女性達に授けました。

 

2 | 「テヌン・イカット・フローレス」統一の象徴

フローレス織(テヌン・イカット・フローレス)は芸術的価値の高い、インドネシアの伝統的な文化財の一つです。東ヌサ・トゥンガラのフローレスを産地とするこの布の製造工程には20以上のプロセスがあり、1枚の布を完成させるのに1ヶ月近くかかることもあります。

フローレスのいくつかの地域がこの布の生産地です。マウメレ、シッカ、エンデ、ンガダ、ナゲ・ケオ、マンガライ、リオ、およびルンバタなどです。それぞれの地域には様々なモチーフや模様、色の特徴があります。この多様性はフローレスの人々の民族性、習慣、宗教、日常生活を表すシンボルを取り入れることに繋がっています。

目を楽しませてくれるフローレス織の布の柄は、それぞれが異なる意味を持ち、その人の社会的地位も反映しています。模様の中には政府と国民の一体感を表現した菱形や、フローレス島に隣接する山々を表現した上下の三角形のライン模様などがあります。モチーフの複雑さを見てみると、男性用のフローレス織の布は女性用の布よりもシンプルなものが一般的です。

 

3 | 「テヌン・スンバ」ユニークな動物のシンボル

Indonesian fabric

自然の美しさに加え、スンバは織物でも有名です。この織物の染料は、ノニの根、木の繊維、泥などの天然素材から抽出されています。製造工程は3年にも及ぶこともあり、1枚の布を作るのに42段階のプロセスを必要としています。植物から染料を練り上げる工程では、グワンの葉を使った括り作業の後、乾燥の工程を行います。これが、この布を特別で高価なものにしている理由です。

この織物の柄にはそれぞれ意味があります。例えば、スンバの布に描かれている馬のモチーフは、スンバの人々にとって馬が名誉の象徴であることから、英雄、威厳、高貴さを象徴しています。他にも、ワニや鶏などのモチーフは強さや生命力を表しています。通常、このモチーフを身につけるのは王や王妃、その社会の中にいる人々だけです。もう一つの一般的なモチーフは、団結を象徴するオウムです。

スンバ織りの特色はこれだけではありません。出産や結婚のお祝い、埋葬の儀式などで重要な役割を果たしています。海老は永遠の命への復活を象徴することから、死者の体は海老の模様の布で覆われます。

 

4 | 「ウロス」祝福の象徴

ウロスは北スマトラのバタック族に由来する織物で、文字通り体を温める毛布を意味します。地元の信仰によると、人間に暖かさを提供する、太陽、火、ウロスという3つの源があり、これらのうちウロスは最も快適で親しみやすいと考えられています。ウロスの作り方は、パレンバンの典型的なソンケットの作り方と似ており、機械の代わりに織機を使います。ウロスの主な色は赤、黒、白で、金や銀の糸を織り込んだ装飾が施されています。

バタック文化において最高クラスのウロスはウロス・ラギドゥップです。これは生命を象徴しており、前の人々よりも長く生きるという希望をバタックの人々にもたらします。通常このタイプのウロスはシタリホノントン(ショール)として使用されます。 また別のタイプのウロスは、ウロス・サドゥム・アンコラ/ウロス・ゴダンです。これは通常、家族に喜びと祝福をもたらすことを願って、愛する子供たちに与えられます。クラス的にはウロス・ゴダンはウロス・ラギドゥップより下ですが、価格的にはウロス・ゴダンの方がはるかに高価です。

 

5 | 「バティック・パプア」極楽鳥、チェンドラワシ

パプアのバティック文化と技術の開発は、インドネシア政府が文化的エンパワーメントの形で国連開発計画(UNDP)から支援を受け1985年に始まりました。政府はジョグジャカルタ市からバティックト・レーナーを呼び寄せ、パプアでのバティック研修を実施しました。研修を受けた後、パプアのバティック職人は徐々にバティックを作ることに慣れてゆき、独自のバティックパターンを作成しました。

ジャワで作られたバティックと同様にパプアのバティックも、パプアの価値観に近い独自の意味を持っています。これらのバティックパターンの多くは、地元の文化や自然を表す要素を備えています。有名なパプアのバティックの柄には、アスマット、チェンドラワシ、カモロ、プラダ、ティファ・ホナイ、パプアン・センタニ、非対称パターンなどがあり、その中でチェンドラワシが最も人気があります。この柄は、通常、固有の花の柄と組み合わせて使用し、着る人に上品な表情と自信を与えます。

 

織物はインドネシアの多様な文化遺産の一部であり、歴史から切り離すことはできません。これらの伝統的な布の背後にある物語を深く知ることによって、あなたはインドネシアのアイデンティティとなる価値観について学ぶことができます。将来のインドネシアへの旅行では観光村や地元の店を訪れ、これらの織物をお土産として購入することを忘れなく!

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